Tokyo Byakuya Hikou
初詩集「東京白夜飛行」Revised Editionをリリース
本作に収録された14篇は、「白鳥の街」「光芒」「直線と窓」「アブストラクト」「白妙」など、都市の孤独と、そこに微かに残る救済への希求を主題とした詩群です。眠らない都市、明るすぎる夜、終わらない欲望の中を飛び続けた結果、疲れ果て、それでもなお救いを求める精神。その軌跡は、微かな光を残しながら、痛切に描かれています。
加藤 白の詩は、映像のように現れては消え、沈黙や呼吸の間までも詩の構成要素として扱われます。冷たさと温もり、現実とあの世、「生きること」と「死を見つめること」のあわいが、一つの呼吸のように共存する。表題作「東京白夜飛行」は、永遠の白夜を飛行する魂のモノローグであり、現代都市に生きる人間の欲望、依存、孤独、そして救済への希求を描いた作品です。
装画は、美術家・中谷 優大が担当
東京という都市が抱える憧れ、消費、依存を、一人の身体として表現しています。モデルが被るのは、へちまの乾燥素材でできた、不定形のモンスターのような帽子。そこには、変身への欲望と、「へちま」という言葉に含まれる、つまらないもの、怠け者、戯け者といった意味も含まれています。
頭の後ろには、使い捨ての箸が放射状に広がります。それは太陽ではなく、「誰かに見てほしい」という願望が後光のように広がった姿。しかし、その光は、消費され、捨てられていくもので作られたものです。痩せこけ、ただれた身体には、海外文化やブランドへの憧れを、ドラッグのように過剰摂取してしまう現代の姿が重ねられています。
この詩集は、美しさと空虚さ、憧れと依存、変身願望と消費社会の痛み、そしてその先にある、かすかな救済への願いを描いた、現代の東京の肖像です。
Publisher’s Note|Unagi Room
[収録作品]
01 白鳥の街
02 東京白夜飛行
03 光芒
04 アブストラクト
05 直線と窓(白秋献詩 佳作作品)
06 うつくしき世界
07 変貌
08 終わりと始まり(美術提供作品)
09 白妙
10 春愁(合評朗読会 発表作品)
11 レンチキュラー(美術提供作品 グランプリ受賞)
12 分光透明(岐阜県文芸祭 入選作品)
13 フェルマータ(三服文学賞 選考作品)
14 ことわり(JILA朗読コンクール 本選作品)
Poetry
白鳥の街City of Swans – 2025
白鳥が水面をたたき
誰もいない街の
朝を揺らした
彼女は逃げおくれた
夜をカーテンで包み
足早に歩むが
大丈夫だとうなずいた
その日の午後には
はじめての雪が降りつもり
呼吸をするように
屋根もそっとうなずいた
直線と窓Straight Lines and Windows – 2025
白秋献詩 佳作作品
ランドバッグの角が
早朝に句読を打ち
氷点で鳴き止む一斉の鳥たち
轍だらけの机の上で
金魚をついばむ拍節器
まっすぐに伸びていく窓はまだ遠い
短点と長点を叩く心臓に
震えで世界を鼓動させる唇に
存在とは割り切れない小数点であって
体温とは迷いを照らす常夜灯であって
絞りだしたミルクと同じくらいの勇気を
わたしは、わたしの熱で腐らせていく
なぜなどはない
それが人生なのだから
産声に喚起し、遺影に理解をしめす
それが人生なのだから
最初の線は白だった
自由へ急行する直線する白だった
窓はまだ遠い
わたしは、わたしの存在をまた薄めていく
終わりと始まりEnd and Begin – 2025
美術 提供作品(中谷優大 )
争いには点があって
平和には線がある
争いには熱があって
平和には無がある
争いには声があって
平和には沈黙がある
争いには始まりがあって
平和には終わりがある
築き、崩れ、気づくとき
また芸術は生まれる
春愁Spring Melancholy – 2025
詩誌 La Vague 合評朗読会 発表作品
おとぎ
おののき
しのび
咲き
またあなたが訪れました
ささやかな陰を結い
月をも誘う
香りをたぐわせ
たゆたう混沌を
苦悩するコントラストを
触れずにそっと
薄めてくれるのでしょう
枯れたあなたを
見たことがあります
枯れるわたしも
見せることになります
軌跡に舞う
蝶々やわたしは
あなたから見れば
蛇行に区画でしょうか
視線で焼けた存在もいつか
希望とともに映るでしょうか
あなたの訪れに
胸が踊るのです
あなたの訪れに
救われていたのです
レンチキュラーLenticular – 2024
ACTA+ ART AWARD グランプリ作品(中谷優大)
ジョン・ラングドン・ダウンが
最後に見たものは
寂光か、泡沫か
手詰まりの希望
聖者は行進をする
変化はいらない
ぜんぶよこせ
鬼も外、福も外
はじめるも人、おえられぬも人
桜花に夢寐
それに借着よ借着
またいつか逢いましょう
望まない世界で
美しい世界で
静寂に包まれた
自然も主も真似事も供犠も
分光透明Spectral Transparenc – 2025
岐阜県文芸祭 入選作品
安直にただ認識されたいのです
けれど分子のように
透明でありたいのです
切実にただ理解されたいのです
けれど光子のように
透過してしまいたいのです
摩擦にも衝撃にも
どうにも耐えられず
かき集めた神経たちが
ほろほろと砕け散ってゆくのです
その破片たる一部が
心臓につきささり
規律で囲われた自由が
ただただ淀んでいくのです
それでもなお聴こえてきます
「透明でありたい」と
不可能な願望も結局
私であり、分光なのです
透明なのです
フェルマータFermata – 2021
三服文学賞 選出作品
蜃気楼は夜露となり
誰かと問う
凍えたピアノ
寂しささえも
光はヴィオラ
そのアルタード
沈んだベッドで
テンポがわるい
音を映しあって
いつまでも夢を見て
世界はフェルマータ
あなたが目を覚ますまえ
描きたいこと
だれにも擬られず
だれにも触れられず
だれにも愛されず
描きたいこと
感覚器は夜つゆとなり
寂しさを問う
ひずんだピアノ
灰色さえも
陰りはチューバ
またアルタード
沈んだベッドで
テンポがかるい
音は透きとおって
鏡のなか
まわりつづける
息もできないほど
深紅はエンドピンまで
光は戻らない
メロディーは薊のよう
少しだけ夢を見て
世界はフェルマータ
二人が目を覚ますまえ
描きたいこと
だれにも擬られず
だれにも触れられず
だれにも愛されず
描きたいこと
いつまでも夢を見て
終わりはないフェルマータ
二人が目を覚ますまえ
描いていたこと
だれにも擬られず
だれにも触れられず
だれにも愛されず
二人だけ
ことわりReason – 2025
JILA朗読コンクール 詩部門 本選作品
夜明けまえの焼けた空が
焦燥と声を奪っていく
致命的な光をつかむエコーと
移植的なヘイターを葬りたい
虚像のカテーテルに雨を流し
熱を帯びたコンクリートたちを許したい
待合室まで伸びた影が
正しい拍動に戻るまで
決して目を逸らしてはいけない
結局をことわりたい
解剖の等価が安らぎであっても
私たちは私たちの尺度でしか
きっと受け取りはしないだろう
群青にも色が溶けあい
ようやく、ことわり
どうりで似たように配置されているわけで
どうりで触れても触れられないわけで
光を頼りに未生を泳いできた
自我で覆う私たちを赦したい
鼓動にくちずさみ
記憶をたどり
修復はもう必要なく
私たちはきっと孤独ではなく
Lyrics
綿Cotton – 2021
Kitsuneme 提供作品
Everything and nothing
からまり
愛の綿にしずむ
We’re in muddy water
言葉はだれは種をまく
黄色と聴こえてきたこと
だれかの飲みかけレモンソーダ
明日も嘘にそまって
あたりまえにゆれて
あたりまえにふれて
あたりまえにとじて
Everything and nothing
火をつけて
愛の綿にしずむ
Night and story
からまり
We’re in muddy water
Everything and nothing
火をけして
愛の綿にしずむ
Night and story
からまり
Night and story
夢をみる
Night and story
夢をみて
Night and story
つながって
モノクロームMonochrome – 2024
アジアデジタルアート大賞展 グランプリ作品(中谷優大)
影のなかをあるく
光をさけながら
白黒興味ないんだよ
どっちも病んでんだろ
こころはひらくもの
すべて失ってくのに
点とざらつきで
バラバラになっても
モノクロの世界で
叫ぶうた
赤はなぐられた色で
青はなおりかけの色
モノクロの世界で
叫ぶのは
だれからも愛されないで
夢をみてたから
雨音がはねてきこえる
楽しそうだから踊った
濡れるのも許されなくて
どうにかなっただけさ
暗闇はおちつくんだ
星空が眠るころに
また終わりを感じて
どうしようか迷って
モノクロの世界で
叫ぶうた
青はなおりかけの色で
赤はもう感じたくはないんだ
齧られた林檎Bitten Apple – 2024
アジアデジタルアート大賞展 グランプリ作品(中谷優大)
つながってる林檎
朝は二つあって
言葉はいらなくなってた
すべてが愛おしいんだ
彼女が死んだ朝に
僕は心が壊れて
世界は動きつづける
林檎は一つになった
色を失って
つながってる
つながってる言葉
なんの意味もなくて
ギターをはじめた頃
指も心も擦り切れていた
彼女が死んだ朝に
僕は心が壊れて
世界も壊れているはずさ
林檎だらけなんだから
色を失って
一つで十分なのに
たくさんほしがったり
ほかの誰かじゃなくて
君をずっと詩ってる
時が壊れたらいいのに
ワームホールに吸い込まれたり
ぜんぶバグっちまえばいいのに
綺麗でいろとかよく言えるな
彼女が死んだ朝に
僕は心が壊れて
世界は動きつづける
齧られた林檎
色を失って
夜曲Nocturne – 2024
アジアデジタルアート大賞展 グランプリ作品(中谷優大)
きらめく街に心をあずけ
人波のなかに溶けこんでゆく
言葉の底に沈めた涙のしずく
誰にも見せず眠った
ここでは風に吹かれながら
孤独の羽根を知って
夜にとけた月に
落ちていくからだ
華やかさは心
冷たくしてくだけて
誰のことも癒してはくれない
ただ隙間に詰めこんで
ここでは風に吹かれながら
孤独の羽根を毟って
夜にとけた月に
落ちていくからだ
夢はかけらになって
いつか消えそうな梦になって
すてる勇気がもてなくて
誰かの詩に救われて
孤独は星になった
誰かに頼ることも
覚えはじめて
すこし輝きはじめて
蝶の夢Butterflies Dream of Human – 2024
アジアデジタルアート大賞展 グランプリ作品(中谷優大)
無駄なばかり
あたりまえに
慣れすぎて
求めてばかり
あなたとなら
生きていける
道が途絶えたとしても
どんなに多くの
悲しみが訪れても
また自分を失っても
いらないもので
埋めようとして
高いものばかり
つけすぎていて
重いからだは
沈んでくただ
今日も明日も
鉛錆びて
あなたとなら
生きていける
道が途絶えたとしても
どんなに多くの
悲しみが訪れても
また自分を失っても
