≒
白鳥の街
白鳥が水面を叩き
誰もいない街の
朝を揺らした
彼女は逃げおくれた
夜をカーテンで包み
足早に歩むが
大丈夫だとうなずいた
その日の午後には
はじめて雪が降りつもり
呼吸をするように
屋根もそっとうなずいた
直線と窓「白秋献詩 佳作受賞作品」
ランドバッグの角が
早朝に句読を打ち
氷点で鳴き止む一斉の鳥たち
轍だらけの机の上で
金魚をついばむ拍節器
まっすぐに伸びていく窓はまだ遠い
短点と長点を叩く心臓に
震えで世界を鼓動させる唇に
存在とは割り切れない小数点であって
体温とは迷いを照らす常夜灯であって
絞りだしたミルクと同じくらいの勇気を
わたしは、わたしの熱で腐らせていく
なぜなどはない
それが人生なのだから
産声に喚起し、遺影に理解をしめす
それが人生なのだから
最初の線は白だった
自由へ急行する直線する白だった
窓はまだ遠い
わたしは、わたしの存在をまた薄めていく
フェルマータ「三服文学賞 選出作品」
蜃気楼は夜露となり
誰かと問う
凍えたピアノ
寂しささえも
光はヴィオラ
そのアルタード
沈んだベッドで
テンポがわるい
音を映しあって
いつまでも夢を見て
世界はフェルマータ
あなたが目を覚ますまえ
描きたいこと
だれにも擬られず
だれにも触れられず
だれにも愛されず
描きたいこと
感覚器は夜つゆとなり
寂しさを問う
ひずんだピアノ
灰色さえも
陰りはチューバ
またアルタード
沈んだベッドで
テンポがかるい
音は透きとおって
鏡のなか
まわりつづける
息もできないほど
深紅はエンドピンまで
光は戻らない
メロディーは薊のよう
少しだけ夢を見て
世界はフェルマータ
二人が目を覚ますまえ
描きたいこと
だれにも擬られず
だれにも触れられず
だれにも愛されず
描きたいこと
いつまでも夢を見て
終わりはないフェルマータ
二人が目を覚ますまえ
描いていたこと
だれにも擬られず
だれにも触れられず
だれにも愛されず
二人だけ
終わりと始まり「美術家 中谷優大 二〇二五年九月提供」
争いには点があって
平和には線がある
争いには熱があって
平和には無がある
争いには声があって
平和には沈黙がある
争いには始まりがあって
平和には終わりがある
築き、崩れ、気づくとき
また芸術は生まれる
